ソヴェトの社会の歴史は、生きた姿で非常に深い教訓を与えていると思います。過去において与えるばかりでなく、今日においても深い教訓を与えるものと思います。そして明日のためにも……。
 最近、戦争が済んでから、ソヴェト領へ捕虜で行っている日本の人がどっさりあります。その方たちのある部分の方は帰って来ました。しかしある方たちはまだ帰って来ません。手紙は来るようになりました。赤十字の印のついた往復葉書で手紙が来るのです。このごろ私たちはまるで知らない人から、そういう葉書を貰いました。日本語で書いてあるわけですが、それを読むとこういうことが書いてある――どういう本を読んでいるということから、自分は思いがけないことからソヴェトの生活をするようになった、そしてここで、これからどの位暮すか知らぬが、自分の大変深く感じることは、日本人の利己心についてである、日本人は利己心が強い民族である、それは何と悲しむべきことで、同時に嫌なことであろうか、ということが往復葉書に書かれて来ました。こういうこころもちに何と答えたら正しい返事になるのでしょう。ソヴェトというと、共産主義者の国だとか、或は赤い国だとか、今日でも
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