よりもののわかった人間性を発揮して行くには、それを可能とするように社会的条件をつくり出して行くことに、非常に熱心で、正直でなければならないと思います。自分自身をペテンにかけたり、人をペテンにかけたり、あきらめたり、言訳をしたり、しようがないと思ったりしては、ならないと思うのです。
 日本人は、よくしようがないといいます。ロシアでも昔のロシア人はニチェヴォといって、何でも、しようがない、というような言葉であらわすような気風とみられておりました。そのロシア人は、自分たちの運命の主人になったのです。しようがないという人たちが、ロシア人民全部であったらば、どうしてあれだけの大事業が出来たでしょう。
 中国の謝冰瑩という、連合国の代表で来ておった人が、上海へ帰りまして、「日本の人は立派です。忍耐強くて立派ですが、日本の人はお魚をあまり食べすぎるらしい、魚は口をききません、口をきかない魚をあまり食べ過ぎるから、日本の人はあまり口をきかない」といっております。そこには、鋭い私どもに対する批評があるわけです。文学的にいっておりますけれども……。
 日本人は正しい場合に利くべきように、口をきくべきものだということを理解させられていなかったものだから、自分たちの生活や運命についてさえも、結局人のいうまかせだったのです。そしてこんなにこわされたのです。私たちは私たちの明日のつくりてであろうと欲します。[#地付き]〔一九四七年六月〕



底本:「宮本百合子全集 第十六巻」新日本出版社
   1980(昭和55)年6月20日初版発行
   1986(昭和61)年3月20日第4刷発行
底本の親本:「宮本百合子全集 第十二巻」河出書房
   1952(昭和27)年1月発行
初出:講演「ソヴェト文化の夕」の講演速記
   1947(昭和22)年6月29日
入力:柴田卓治
校正:磐余彦
2003年9月14日作成
青空文庫作成ファイル:
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