どうかということで、真理は全くその歴史的・人間的関係をかえます。何故なら神をつくったのは人間であり、真理として自然の法則を人間の生活の中に把握したのは人間でありますから。人間はまだ当分の間は階級的な存在ですから。
七
婦人の科学技術者が本当に世界的な水準に一致した自身の技術をもち、社会がそれを偏見なしに信頼活用するという時代は、まだきていないのではないでしょうか。もっともその点で前進しているのは、社会機構そのものが社会主義化しているソヴェト同盟でしょう。この問題は、長年ブルジョア女性解放論者によっていわれてきたような、女性の主観的がんばりだけで達成されるものでもないし、戦時中の政府が戦争目的のために婦人技術者を養成して、いまはそれ等の人の中から売笑婦が出るような状態につきおとしているやり方でも解決しません。マダム・キュリーがあれだけの仕事をしたのには、いくつかの原因があります。しかし、基本的に科学そのものが一定段階まで進歩していたこと、当時フランスで婦人の参政権は与えられていなかったけれども、大革命を経たフランスの理性的な人々の心には、婦人の能力に対する偏見が少いという条件がありました。ピエール・キュリーが真に天才的な科学者であったということのほかに、ピエールの父親である人――キュリー夫人のしゅうと[#「しゅうと」に傍点]である人が、嫁のために子供の食事や、ねかしつけることをたすけたという話は、わたしども女の心に忘れられない印象を与えています。アメリカ映画のシスター・ケリーをみても、アメリカではじめての婦人開業医ブラックウェルの話をよんでも、科学における婦人の能力のために闘わなければならなかった様子がはっきり分ります。日本は、封建的偏見と闘いながら、婦人が自身の科学的技術を確立させてゆかねばならないという第一期的状態にあります。そしてその闘いは、現代において二十世紀はじまりのヨーロッパにおいてのように、個人の偶然もっている条件――才能と環境――だけに頼らず、科学技術者として勤労人民の全戦列の一翼にむすびついて前進しなければならないという時代に入っています。
日本に資本主義社会でみられるような個人的な才能の開花、個人的な成功とその名声をたのしむような女性の経験が乏しいために、「民主的」と云われる現代では、なんとなく個人的な開花を渇望する気分
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