am living all alone.」
「まあ――一人ぼっち?」
「ええ一人ぼっち――一人っきりなのです」
ミセス・コムプスンは、言葉の重みを計るようにゆっくり頷きながら答えた。が、赤い頬辺の微笑は、長者的な落付きで一層|濃《こま》やかになった。彼女が、もう何十年かそういう暮しをして来たことを、伸子は理解した。
「じゃあ淋しいわね、御飯だけはこちら?」
「ああ、それがね――どうもここに働いている者みんなが望んでいる通りに行きませんでね、困るのですよ」
今まで、どこやら子供相手というふうに返事していたミセス・コムプスンの顔が俄に生気を帯びて来た。彼女は、すっかり伸子の方へ向きなおり、本気な小さい声で訴えた。
「御承知の通り、ここには三つ食堂がありますでしょう、生徒がたの分だけでもね。それが一部屋でざっと八九十人の御賄を仕度なさるんですから、いつだって十や二十、外出の方々の分が残ってしまうんですよ。――若い娘さんが、ドシドシ捨てていなさいますからね。どうせ捨てる物なら分けて欲しいと思って、ミス・ハウドンにも願ったんですけれど――」
「駄目なの?」
ミセス・コムプスンは、亜麻色の束
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