七階の住人
宮本百合子
−−
【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)森《しん》として
|:ルビの付いていない漢字とルビの付く漢字の境の記号
(例)丁度|襟《カラー》をつけかけていた
−−
「お早う」
ミセス・コムプスンが入って来た。
「今日は御部屋ですか」
彼女は、亜麻色の髪を古風な束髪にし、雑使婦そっくりな藍縞の服に長い前垂をしめている。
「お早う……」
伸子は、丁度|襟《カラー》をつけかけていた衣服を両腕ですくいあげながら寝台から立上った。
「私、ここにいちゃあ邪魔?」
「いいえ、結構ですとも! 静に奇麗にうまくしてあげますですよ」
ミセス・コムプスンは、雑巾や水を部屋に入れた。小さい敷物を先ず廊下に出した。それから、細々したものが一杯載っている化粧台の上を片づけ始めた。
化粧着を肩にかけたぎりなので、伸子は縫物をもってまた坐った。彼女の場処から、あちら向きのミセス・コムプスンの上半身がそっくり鏡に映って見えた。同じ鏡に、すぐ横の窓枠の端と、勉強机の一部が矢張り映っている。三月の晴々した午前十時であった。寄宿舎にもこんな時があるかと驚くほど建物じゅ
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