方には、現在にあっては自然を愛しよろこぶゆとりを与えられない大衆が、社会的事情のよりよい条件の獲得とともに、自然をもとりかえそうとしている文学が存在している。眺め、そしてその中に逃避するための自然ではなく、人間と自然との健康な科学的な相互関係をとり戻し、自然を人間の幸福の源泉として、物質と精神との上に最大の可能さで価値を発揮させようという方向に努力している文学が、本質的な対立をもって立ち現れている。これが、今日の文学における自然というもののありようである。そして、最も興味あることは、かような健康な自然との関係がとり戻されたとき、私たちはその自然の中に人間の進んで来た足どりをまざまざと感じることで、ますます美感を複雑にし、豊かな喜悦を感じることである。今日のソヴェト文学作品のあるものは、「私は愛す」のように、新たな人間関係の美とともに自然と人間との相互関係にもたらされた深い鮮やかなよろこびの感覚を描きはじめているのである。
底本:「宮本百合子全集 第十巻」新日本出版社
1980(昭和55)年12月20日初版発行
1986(昭和61)年3月20日第4刷発行
底本の親本:「
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