に不抜の根柢を与えてゆく、その心臓のようなものであろうと思います。生きてゆくことがいつも自分にわかっている。何をしようとしているかということが自分にわかっている。このことをすればそれはどういう結果になるかということが自分にわかっていること、それが自覚です。
 今年は昨年の様々な経験を生かして、新しい年をより充実してゆきたいと思うのは、わたし一人ではないでしょう。
 人間が犬と猫とでないことは、経験をわたしたちの理性のなかに取り入れて、そこから生れる新しい判断で新しい一歩を踏み出せるというところにあります。「雄々しい女性」というものは鉢巻をした女性ではありません。現実に対してはっきりと視線を向けることの出来る心を持った女性のことです。美しさの一つの要素に欠くことの出来ないものは、雄々しさです。わたしたちが若い女性として美を愛するならば精神の美としての雄々しさを見失うことは出来ないと思います。わたしたちの眼がぱっちりと見ひらかれないで、睫がやにで半分閉されているようなとき、その眼を美しくするために冷たい水でもって眼をお洗いなさいというようなことを美容法では忠告しています。清新な眼を見ひらいた美しい匂やかなまなざしを、わたしたちは自分に持ちたいと思います。自覚は、生きてゆき、建設してゆく喜びそのものになってくることが期待されます。[#地付き]〔一九四七年五月〕



底本:「宮本百合子全集 第十五巻」新日本出版社
   1980(昭和55)年5月20日初版発行
   1986(昭和61)年3月20日第4刷発行
底本の親本:「宮本百合子全集 第十二巻」河出書房
   1952(昭和27)年1月発行
初出:「女性展望」
   1947(昭和22)年5月号
入力:柴田卓治
校正:米田進
2003年6月4日作成
青空文庫作成ファイル:
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