れた。一つの本からひき出された新しい興味によって、又その方へ読書をひろげてゆくという風で、小説のほかのいろんな啓蒙的な科学・哲学の本をよむことが出来た。
今思えば、貴重なのは決して、そうやって読んだ何冊かの本の知識ではなかった。一人の人間の裡にある可能を十分にのばそうとする千葉先生の偏見のない若々しい誠意が、私のうちのまともなものを急速に、よろこび躍るように育てて行ったのだと思われる。
それには千葉先生が担任でなくて、一定の距離と自由のある位置にいられたこともよかったのだろうし、また、若い娘の感情に通暁していて、常にある程度は整理した心持で、甘えず信頼することを学ぶようにされたことも、よかったのだろう。
女学校の最後の一年は、女学生らしくなかったとしても、本質的には実に勤勉によく暮した。著しい成長の時期であった。
女学校がすんで、目白の日本女子大の英文科の予科に一学期ほどいて、やめた後だったと思う。千葉先生と河崎なつ先生とが、桑田芳蔵博士の教室で心理学の勉強をされたとき私を仲間に加えて下すったことがあった。ヴントの本で、一寸した実験もやったりして、その本の終るまで通った。今日あ
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