い、やや浅黒い、額の心持よく緊張した顔立ちの若い先生は、第一瞥から暖い心情的な感じで若い生徒たちを魅した。多い髪がいくらか重そうにゆったりと結われているところも、胸元がゆったりとしているところも、動作の線がのびやかなのも、みんな生徒たちをよろこばせた。
 それが、千葉安良先生であった。学校の空気には、抑えても溢れる若さに共感をもつような要素にかけていた。情緒のうるおわされるものがなかった生徒たちは、おそらく一人のこらずと云っていいくらい、千葉先生には好意をもったと思う。千葉先生は毎朝の体操のときに水色メリンスのたすきをかけた。すると、級のなかに、同じようなメリンスのたすきをこしらえて、丁度千葉先生がそれを結んだように房さりと結んでかけていたひとがあった。何日か経ったら、級の担任の女先生から、生徒一同が叱られた。この頃、誰の真似だか知りませんが、変にずるずると髪をまいたり、大きいたすきをかけたりなさる方があるようですが、みっともないからおやめなさい。
 少くとも一つだけの愉しみは学校にも在るようになった。私は級で一番の前列だったから、まるで自分ひとりがそのめずらしい人間らしい心持のする先
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