す。
 大人の、上手な、けれども嘘や好い加減を平気で混ぜた話よりも、少年の正直な、心からの言葉は如何那《どんな》に人を動すでしょう。
 少年は、その人前でもちっとも恥しがったりうじうじしないで、確《しっ》かりと、白耳義《ベルギー》の孤児を自分達が助けて上げなければならないと云う事を話しているのでした。
 勿論此は、其の少年一人の仕事ではないのです、日本のように欧州《ヨーロッパ》から遠く離れて、今度の恐ろしい大戦争の苦しみを余り受けなかった国では、左程ではありませんが、私の居りました時分の米国では、一先ず大戦乱が終った後の始末で、非常に沢山の事業が計画されて居りました。
 後から戦争に加って、仏蘭西《フランス》や白耳義《ベルギー》、ルーマニア等ほど大きな損害を受けなかった米国は、出来る丈の力を振って、気の毒な欧州の人々を助けようと仕たのです。
 今此処で大勢の人を集めている少年も、きっと紐育の市中の人々が集って寄附金を募集しては、米国の政府として白耳義《ベルギー》の孤児を救済する団体に属している者でしょう。
 皆が聞き洩さないように気をつけながら、少年の話を聞いています。
「皆さん、僕は
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