リキイは単なる一箇のロマンティストであり、或いは色彩豊富ではあるが、われわれを教える何ものをも持たない一人の大言壮語する饒舌な作家として、やがて忘れられただけであったろう。
 ゴーリキイをここから救ったのは彼の溢れるような文学的才能を常に正しい道にひきとめ、それを押しすすめた独特の正直さ、現実をあるがままに勇気をもって直視する能力であった。その力によってゴーリキイはながい歴史の波瀾の間に自分自身の結合せらるべき意志はどういうところにあるかということを理解した。
 この力によってゴーリキイは若い時代に彼の血を清く保つ力となっていた自身のロマンティシズムを、歴史のもっとも積極的な現実の可能性をはっきり見透し、そのために献身的な努力を惜しまないという点で、翼を持たぬ日常主義者には或いはロマンティックであるといわれるかも知れぬ一つの力に融合させたのであった。
 今日のような時代に生きるわれわれにとってゴーリキイの歩んだこの道は無限の含蓄をもっている。ゴーリキイが若い労働者の文学志望者に与える言葉の中に「私はロマンティシズムを支持する、しかし、ロマンティシズムに対して極めて本質的な条件つきのもと
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