、ソヴェトの作家として不満を感じるといった。
 何しろそのころの私のロシア語でそれをいうのであるからゴーリキイとしても要点をつかむのに困っただろうが、彼は持ち前の注意ぶかさ、老年になってもちっとも衰えることのない集注的な眼つきで私の話をきき、フムフムとうなずき、私があなたはピリニャークをどう思うかと訊いた時、彼は全く素朴な、しかもきわめて痛切な表情でもって、たった二た言、
「ふーン、あれか」
というような意味の言葉をいい、それだけで決定的な評価が感じられるようないい方をした。決して個人的な軽蔑をしめしているのではないが、ながい階級的な文学的な訓練によって鍛えられた一箇の大きい人格がはっきりこの世の中に現われてくる才能の大きさ、誠実さを洞察している明徹な力をその言葉に感じたのであった。
 なお日本の話が出て、ゴーリキイは私に、日本では婦人が自由に本を出版することが出来るのかときいた。私はそれは出来ると答えて、なぜそのことを訊ねたかということを逆に問い返した。
 ゴーリキイは、ムッソリーニは婦人に出版権を与えていない。婦人の作家たちはイタリーで本を出す時、夫或いは父親、その他の法律上の親権
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