のない時間であったろう。試験管を挾んで火にあたためて、薬の一二滴を落してふって色の変ったところを眺めたり、アルカリ反応、酸性反応と細く小さい試験紙をいじったこと、それらが淡い光景となって想い出される。今は女学校の化学もきっと大変ちがった教えかたをされているだろうと思う。もっと生活に結びつき、教えられているだろう。
物理の段々教室は陰気で埃っぽかったが、化学よりは面白く思われた。
代数は今の女学生にとってどの位興味ある課目となっているのだろうか。三年生のとき、丁度女の子の感情が動揺し敏感になっている頂上の時に代数がはじまる。トルストイの「戦争と平和」の中のアンドレイ老公が女の愚劣さを制するためにと公爵令嬢マリアに数学をやらせている描写がある。同じような配慮から、その年齢と代数とが組み合わされているのであったら、教えかたで、面白さのかんどころ[#「かんどころ」に傍点]の掴みかたを先ずわからせて行かなければ、なかなか苦しい課目になると思う。女学校でも中学校でも三年生のときは、学校が一番辛い時代である。その辛さは、自身の成長過程に不調和が生じているばかりでなく、その成長期の動乱を統一する力
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