経済的に自立する丈の能力を持たず、さりとて、社会的な勤労に従事したこともなかったそれらの婦人達が集まって、文化文学についての情熱を吐露し合ったとしても社会生活における根のなさ、経済的親がかりの事情は、彼女たちの現実の能力を制約した。観念の上で、どんなに純粋に天才を叫んでも、彼女達の現実はやはり紡績工場の女工のハナ子、トメ子が縛られていると全く同じ家族制度と、民法と刑法の中に棲息していた限り、彼女達の飛び立とうとした翼は歴史の中で十分に伸ばし得なかったのであった。
この時代に『白樺』の人道主義運動も起った。『白樺』は人間の尊重、芸術の尊重、人間精神の尊重を主張した。『白樺』によって紹介されたヨーロッパの芸術家達、例えばトルストイ、ロダン、ロマン・ローラン、ホイットマンなどは何《いず》れも日本の文化に新しい息吹を吹込んだ。白樺運動の、当時まだ若かった武者小路実篤その他の人々は日本にとって一つの新しい魅するところある新鮮な力であった。けれども、そののち何年かを生き古した武者小路実篤が、今回の戦争中、どれ程無智な一人よがりの気持で戦争に協力したかということを見れば、社会的観察力の欠けた人道主
前へ
次へ
全111ページ中44ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング