お多くの人々に愛せられているし、明治文学を眺め渡した時、婦人作家として彼女くらい完成した技術を持っていた人はなかった。しかし日清戦争前後に生活した一葉が描いている婦人の世界というものはどういうものであったろう。有名な「たけくらべ」は詩情に溢れた作品である。主人公達、少年少女としての朧ろな情感の境地は叙情的に、繊細に美しく描かれていて、独自な味いの作品である。そこに一貫しているものは稚い恋心と下町の情緒、吉原界隈の日常生活中の風情、その現実と夢とを綯《な》い合わせた風情である。
「にごりえ」の女主人公であるお力は酌婦である。けれども、生れは士族である。そのことを心の秘かな誇りとしている女である。が、男とのいきさつの痴情的な結末は、いわゆる士族という特権的な身分を自負する女性も酌婦に転落しなければならない社会であり、しかもその中で自分の運命を積極的に展開する能力をもたなくて、僅に勝気なお力であるに止り、遂に人の刃に命を落す物語が書かれている。一葉が、若い時代の藤村、その他『文学界』の同人達の間に移入されていた、ヨーロッパ風のロマンチシズムの雰囲気に刺戟されたことは、彼女の傑作「たけくらべ」
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