るという希望を与えた。総ての新聞が、この処置に賛成の声を挙げて、人々の投書を載せた。成程、これらの四大財閥の、中心的な機構は変化させられたし、或る企業の一部分は完全に解消させられた。ところが、ここに政府の戦時利得税、財産税についての法案が臨時議会を通過した。先達てラジオで読売新聞社の論説部員が、非常にはっきりと分りよく、私達の生活にとって、この戦時利得税と財産税というものが、どういう関係を持っているかということを説明してくれた。それによると戦時利得税は、戦争によって国内に生じた富の偏在を調整するために、少からぬ道徳的な意味をも含んだ性質のものの筈である。誰が考えても、戦争によって多大な犠牲を払い、生活を根本的に壊された人民大衆に対して、ほんの一部の軍需生産者ばかりが、巨万の富を積んで、謂わば彼を富ましたため社会事情によって惹き起された苦痛な食糧問題にも、住宅問題にも、インフレーションの不安にも、かけ構いない贅沢な暮しをしているということは、納得の行かないことである。その人達が、戦争という人類的な犯罪によって得た不当な利得を吐き出させられるということは正当の処置と思われる。
 財産税にしろ、要らない金と、要らない土地を独占して、社会経済不調和の原因をつくっているよりは、一定限度に、富を平均化して行くということは肯かれる。ところが、ラジオの解説によると、戦時利得税徴収の方法と、集めた金の処分方法は私たちに極めて奇異な感じを抱かせる。一定以上の高額税は、四ヵ年支払延期の許可がある。毎日の暮しを見ていれば、僅か三ヵ月でさえ経済事情は大変化しているのに、これから先四ヵ年の日本が同じ経済事情でのろのろと這って行くものと、誰が思おう。四年間の猶予ということは、取りも直さず、ずるずるで払わないでも済んでしまうという可能性をもっていると、その解説者も明快に説明した。それは数十万円の税金を払う最も多額の利潤を得た人々のために、政府が考えてやっている便法である。より少い、より僅かしか儲けなかった人に課せられる税は、率は少くても利潤の大半を引攫うものであろうが、それに対しては猶予はないのである。彼等の戦時利得の規模は、不幸にも、政府を買うだけの額に達していないという意味である。
 集めた税はどう処分されるのだろうか。私達は、その金を基礎として、当然人民の日常生活必需を充たす方法が考えられて
前へ 次へ
全56ページ中42ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング