行く可き処に行き着いたのです
宮本百合子

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【テキスト中に現れる記号について】

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(例)〔一九二一年十二月〕
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 私はあのお話をきいた時、すぐに、到頭ゆくところまで行きついたかと思いました。私はあの方と直接の交際をしたことはなく歌や人の話で、あの方の複雑な家庭の事情を想像していただけですが、たとえ情人があってもなくても、いつかはああなって行くのが、あの方の運命だったのでしょう。あんなに歌の上では、自分の生活を呪ったり悲しんだりしているが、実生活の上では、まだ富の誇りに妥協して、二重な望みに生きているのだという気がして、私はいつでも、あの方の歌を拝見する度に、ある小さな不満を感じて居りました。が、今度の事件をみますと、しみじみ女としての理解と同情の念が湧いて来ました。女は夫を持てば、誰しも夫に愛されたいことばかりを考えますのに、家出をしたからとはいえ、「我儘者だ」とか「何も取柄のない女だ」などと平気でそんな毒口をきくような良人との間に、どうして純粋な清い愛があったといえましょう。こういう複雑な問題は、単にああなったことを、
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