ようなものをもっているのであった。
 誰にも邪魔されずにこの大きい都会の二つの並木路や河岸や林の間を歩きながら、朝子はこの三年のうちに成長した自分というものをそれ以前の生活に迄さかのぼって隅から隅までしらべ直しているのであった。ここに止って生活する可能が示されたそのところに立って、自分の四隅を見わたしていた。自分がここに受け入れられるよろこびは朝子を真心から震盪《しんとう》するのであり、それだからこそ、真にそれにふさわしい自分かどうか、自分が作家として自分に納得出来るような業績をもち得るかどうか、そのことについて朝子は執拗に自分をしらべるのであった。朝子は客として、何かのサンプルのようにして、この愛する都の生活に寄食するには、あまりにもここの本当の姿を知っていすぎるし、自分の仕事を愛してもいるのだった。
 或る晩、朝子は灯を消してからも永いこと眠らず、考えに耽っていた。カーテンのない大きい窓からは二重ガラス越しにすぐ前の新聞社の建物の屋上が見えていて、正面のイルミネーションの余光がぼんやり夜空を赤くしているのが寝台からも見える。室内の家具はその不確な外光をうけて、黒くうずくまっている。
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