広場
宮本百合子
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)凹《くぼ》んだ
|:ルビの付いていない漢字とルビの付く漢字の境の記号
(例)その大きい衣裳|箪笥《だんす》の
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)どう[#「どう」に傍点]というところに
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一
大階段を降り切った右手のちょっと凹《くぼ》んだようなところで預けてあった書附をかえして貰うと、更に六つ七つの段々からウラル大理石を張った広間へぬけ、大きい重いガラス扉を体で押して外へ出た。
暖い冬の匂いのするトゥウェルフスカヤ通りの雑踏が、朝子の目立たないその姿を忽ち活気の溢れた早い自身の流れの裡へ巻きこんだ。日光はあたたかく真上から市街を照らし、建物の錆びた赤や黄色の外壁をぬくめているが、ふと行きずりの通行人の外套からは、もう何処かに消えない霜があることを知らせる匂い、懐しい毛皮の匂いなどが軽く空気の中に漂っている。
手套をはめた片手は深くポケットへつっこみ、片方の手で質素な茶色外套のカラアのところを引つけるように抑えてベレーをかぶった顔をうつむけたまま、朝
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