のように私共にとって大事な希望であるかと申しますれば、それは封建的な重いものを取去るという喜びがある。さらにその上に民主主義というものは人間の能力を無辺際に約束しているものです。私共は賢くなり、実行力ができ、組織をもつことによって、それは必ず私共に実現され得るという可能性を見せているのが民主主義的な国家のあらゆる段階なのです。だから、今日日本が民主的になろうとすることは、まず第一段に発展する可能性の一番低い段階に足をかけているということなのです。
時間がなくていろいろなお話ができないのですけれども、民主的なものの一番根本は人間の生きている権利、そしてそれは私共は社会の生産に関与して生きているというその権利が主体なのです。そのほかわれわれが考えなければならないことは、今の憲法草案には天皇は議会を解散させることができるとなっています。そうすると私共がどんなに良心的によい代議士を選んでも、たったひとりの人が議会を解散するといって、それを書いた紙をもって捧げて読めば解散になってしまう。それほど簡単です。私達がこれほど長い間苦痛を忍びたくさん血を流し犠牲を払ってきた。あなた方の御親戚のなかで戦争でひとりも死ななかったお家はないと思います。焼けなかったという方はこのなかに何人いらっしゃいますか。私達が今日まで払った犠牲はずいぶん大きい。そこから私達が真面目に社会をよくしようとしている時に、ひょッと一枚の紙を読めば議会を解散させる権力のあるものがあるということ、しかも憲法草案はすべての人は法律の下において身分、門地その他によらず平等であると申しておりましょう。そうすれば人間のなかにそのような権力をもって、たった一つの言葉で戦争をし何十万の人を殺し何千万の涙を流し、そして何十万の家を焼いた。そういう人に戦争をさせる権利があるということが間違ったということは、あの人は、という規定のなかでいっているわけです。私達の心のなかには昔からいろいろの習慣がたくさんございますから、理窟では正しいと思っても、気持がまだ、感情がまだということがたくさんございます。それは人の気持の自然ですから、理窟で説き伏せるとか気持がそぐわないのにそれは道理だからといって押付けられたら間違っても仕方がないけれども、しかしわれわれの生活はここで間違っても結構だというように過去においても今においても楽だったとは思われ
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