ひろくゆたかな雄々しい心情がなければならないというのは、何と興味ある点だろう。
 つよくよろこぶ心、つよく悲しむ心、つよく憤ることのできる心、そういう心は豊かな心である。そういう心は幸福感もつよく感じるが、その幸福感のそこなわれる感じもきつく受けるであろう。真のゆたかにつよい心は、自分のよろこびの感情も、悲しみの感情も、悲しみは幸福でない感情の面だからいやだときりすてず、そのよろこびをかみしめて味い、悲しみをかみしめて心に味うことから、やがて、自分の心がよろこび悲しむ人間生活のさまざまのいきさつの面白さを理解するところにまで到達する。
 代々の人間がそれぞれの時代の環境の中で、常によりましな生活を求めて生きていて、その過程で敗北し、成就し、自分もそのうちにまぎれもない一人であるということの避けがたい辛さとともにある否定できない面白さ。幸福というものが、案外にも活気横溢したもので、たとえて見れば船の舳が濤をしのいで前進してゆく、そのときの困難ではあるが快さに似たものだといったら昼寝の仔猫のような姿を幸福に与えようとしている人たちは非常にびっくりするだろうか。
 人生に何か一定の態度をもっ
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