作品の血脈
宮本百合子
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)質量《ヴォリューム》
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#地付き]〔一九三九年五月〕
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ふだん近くにいない人々にとって、岡本かの子さんの訃報はまことに突然であった。その朝新聞をひろげたら、かの子さんの見紛うことのない写真が目に入り、私はその刹那何かの事故で怪我でもされたかと感じた。そしたら、それは訃報であって、五日も前のことであった。一種流れ掠めて行くものを感じた。五日も前。――
初めてかの子さんに会ったのは、昔、或る会の折であった。その会には女が二人しかいず、その一人はかの子さん、一人は二十一ぐらいの私であった。従って、はじめから終りまで一緒に並んでいて、食卓に向ったときも隣りあわせた。料理に何か串焼のようなものが出たら、かの子さんがいかにも食べにくそうに、どうしてたべるのかしらと眺めていられるので、私がその串をぬいてあげたことがあった。
和歌の話が出て、私は何も知らず、そういう伝統も持たないが、「金槐集」はすこし読んだことがあって好きと思ったというような
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