形態利害擁護の姿でだけ素朴にあらわれるものではないのである。忌憚なく云えば、石原氏がナチとソ連の科学政策をその現実の本質につき入って比較する力を欠いておられる事実なども、社会悪が最も複雑微妙な作用としてあらわれて来ているところの科学精神における一つの決定的マイナスなのである。
 科学精神における、こういうような、多種多様で且つ隠微な形のマイナスの侵入は実に危険であると思う。何故なら、科学性の客観的敗北は常にこの盲点を契機として行われ、しかもそれが敗北であることがどうしても自覚され得ないという危険をもっているからなのである。

        科学者の随筆的随想

 科学者の社会的関心が積極的になった一つの表現として、一般のジャーナリズムの上での科学者の文筆活動の旺になったことが挙げられていることがあった。特に知名な科学者の随筆などが求められる傾きがつよくあった。注意をひかれざるを得ないのは、一部の科学者をジャーナリズムに招き出したこの時期は、読書人の間に随筆が迎えられた時、内田百間氏が「百鬼園随筆」によって第一段の債鬼追っ払いをした時代であり、日本文学の動向に於てかえり見ると、これは明
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