か。現在行われている探偵小説、怪奇小説の類は退屈しているもの、毎日の生活感情に自主的弾力と方向とをもたないものが、面白がって熱中するのであろうと思う。この種の物語は最後に必ず解答が出て来るという厳然とした約束に立っている。しかもそこまでを、出来るだけ迷路にひっぱって、模造の山河をしつらえて、引きまわされるのを承知して引きまわされてゆく面白さである。
科学的構造が精密であればあるほど謂わば嘘の過程に複雑さがあって、面白いのだろう。或る意味での知的デカダンスである。智慧の輪の好きな人間ときらいな人間がある。きらいな人間の方がより真実の意味でインテレクチュアルであるし、溌剌として現実的である。
科学者が自身の科学的知識によって文筆上いろいろ遊ぶのがいけないと一口に云い切れないかもしれないが、少くとも本当の科学者であるならば、科学の健全性、啓蒙性に沿って、こういう種類の余技、或は道楽をするべきであると思う。それは科学者としての最小限の義務ではなかろうか。
科学と探偵小説
木々高太郎氏は、執筆する探偵小説によって賞をも得たことは周知であり、パヴロフの条件反射を専攻されて
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