た。今日、その事情がどうかわって来ているかはしらないけれども、この小さい一つの例は、忘れられない強さで、女がその活動の場面においてさえ、負わされている一つの男とちがう負担のあることを告げている。非常時だからと和服になった男たちは、少くとも筋のとおった社会的な活動をしている男の間にはないのである。
 現実は、その複雑さで、私たち女をも激しく揉む。揉まれながら、一家の生活を負担し、今やますます広汎に生産の一部をも負担している女は、生活経験によって実力を靭《つよ》められ、逞しくされながら、その間に自分たちの内と外とにのこされている社会的なマイナス、おくれている要素を高めつつ進まなければならないのである。私たち一人一人の置かれている境遇と、そこにある人間的な努力を通じて、婦人全体としての進みが考えられなければならない。兵士への慰問というときにも、女というものが、酒、煙草、絹の概念で、添えられるもう一品(林房雄、「戦のひま」)に止っているということに、私たちの心持は満足しない。私たち女の心にある慰問は、もっと歴史の相貌に根ざしたところから惻々と発しているのである。また、女自身が、兵士への慰問とい
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