きなりひょいと円い赤い行列提灯をつきつけたりしていた。いつよばれるかを知れないような連中なんだね、ああやっているの。と、その様子を眺めながら連れの老齢の男のひとが静かな口調でいった。
 私たち女の心は、こういう街頭の情景にふれても、簡単にただ見ては過ぎかねる動きを感じている。新聞は毎日毎日、勇壮無比な形容詞をくりかえして、前線の将士の善戦をつたえているが、現代の読者が、ああいう大ざっぱで昔風の芝居がかりな勇気というもののいいあらわしかたや、献身というものの表現を、不満なくうけとって、心持にそぐわない何ものをも感じていないとすれば、感受性の鋭さを誇る若い青年男女の心持ちも不思議である。今日の社会の事情は尋常を脱していて、女に求められている力も、女の資質一般ではなく、銃後の力としての女の力である。そして、それは千人針からはじまって、すでに特殊な生産部門に男と代って働く女の力、あるいは複雑な日本の経済条件の日々の負担者としての女の力が呼び出されているのである。
 戦争やその雰囲気にヒロイックな色彩はつきもののように考えられている。銃後の婦人へ与えられる激励の言葉、また、婦人のそれに応える誓の
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