語のままにして行った方がよかろうと思う。

 先ず本国の愛蘭《アイルランド》より却って米国に於て早く認められて今は一部の偶像のように成っている Lord Dunsany に就て書こう。彼の経歴は厨川白村[#「厨川白村」に傍点]氏の印象記の中に委しく書かれているからやめて作品に移る。
 彼は全く白村[#「白村」に傍点]氏の書かれた通り新しい浪漫主義者であろう。故国の政治的状態に就て話そうとはせずに、昔ながらの伝説と神秘の詩に抱かれながら、「今」を超えて生活をする愛蘭農民の永遠を語るのが彼である。彼の素晴らしい空想は、何時でもすきな時に私共を引攫って驚異の国の神、悪魔に、スフィンクスに引合わせる。彼の二重瞼の大きな眼は明るい太陽の真下でも、体中に油を塗りつけた宝玉商の Thengobrind が「死人のダイヤモンド」を盗もうとして耳のような眼玉を輝かせた蜘蛛の魔物の膝元に忍び寄る姿を見るだろう。
 真個に彼は、奇怪な美を持っている。彼の書く寓話は地上のものではないようにさえ見えるのである。
 けれども、其なら彼はその耽美の塔に立て籠って、夕栄の雲のような夢幻に陶酔していると云うのだろうか、
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