ないでやっている。ときどきみなさまの下さるものは、頂いていますがと。――
九月号の女性改造に「鉄格子の中から」として女囚の座談会がのっていた。そこには、三つの事件で犯罪にとわれた三人の女のひとの話がある。どれ一つとってみても、日本の民主化と云われている社会現実の上に、幾重にも折りたたまっている封建の野蛮と無智がおそろしく身に迫る事件ばかりだが、なかに二人のやしない子を育てる苦しさから配給の二重どりしていたのを告発され、懲役になっている中年の女の話があった。みなさまから頂くもので、こんにちの事情の中にあってさえ一つの闇買いもしないで過せる首相の妻という立場にいたら、この四十七歳の人妻も前科者にはならなかった。自分で、物価の統制に関する法律が悪法であると明言しながら、それが法律であるからにはひとにも厳格に適用し、自分もそれで死ぬことをむしろいさぎよしとしたこの判事の悲劇は、「葦折れぬ」の純情がその社会問題のうけとりかたでは文部省版であったことの遺憾さとともに、わたしたちを考えさせずにいない。
人間がよりよく生きるためにつくる法律を、人間の力で変えられない「国家の法律」と絶対に視るこころ
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