ぜの炊事当番が、ジャガ薯の皮むきをやっている光景によくぶつかる。
 学年が進むと、級の日常生活は男女生徒の衛生委員、経済委員、学務委員、社会活動委員の活動によって実質的に進められてゆくようになるのだ。
 だが、ここに微妙な現象が、学級の進むにつれて(ソヴェト同盟では小学校が初等学校四年制、あと七年制、九年制とある。)起って来る。
 級の小さい頃は漠然と仲よしで一組になっていた男の子と女の子とが七年生(十三、四歳)ぐらいになると、一種の発展的分化をおこす。
 小学校の退けどき、賑やかな一団にまぎれ込んで歩いて見ると、小さい級の子供は男の子も女の子もゴチャゴチャだ。冬、むっくり着ぶくれて、頬っぺたまで包む帽子をかぶっているところは女の子も男の子も見境いがつかない。チーチーパッパでやって行くが、上級の子は、女の子は大抵の女の子とつれ立ち、男の子は男の子とつれ立っている。ペーヴメントから溢れるほど大勢で威勢よくのして来る一群には、数人の男の子、女の子入れまじりだ。男の子、女の子と一組だけ組んでいる場合は少い。
 自然の性的自覚が、ソヴェト同盟の少年少女の間にでもこの微妙な現象をおこすのだ。
 ブルジョア教育では、姑息に人生のこの興味ある時期をとり扱っている。互に性的自覚がおこる時機に、共学はやめられる。そして、数多の無智と愚劣な悲劇を起すブルジョア的性別誇張第一頁がはじまる。
 ソヴェト同盟では、共学は共働という社会主義的見地から、この時機は注意ぶかく、然し快活に次の時代へと進められるのだ。
 特に、ピオニェールに組織されている少年少女にとって、この時代は未組織のものよりずっと社会主義的にいい条件で過ごせる。

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一九二六年の統計でもう古いがソヴェト同盟で四年制小学校における女児就学率を表で示すと
同じソヴェト同盟内でもブルジョア・ロシア時代の被圧迫少数民族のところでは、共学率が低い。

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国語別     第一年    第四年
        都会 村   都会 村
ロシア     48.5 39.3  49.6 29.2
ウクライナ   49.3 41.8  43.8 18.6
白露      49.0 38.0  35.5 22.4
ポーランド   70.6 49.7  63.6 44.9
ドイツ     46.4 48.8  45.3 43.8
猶太      42.9 55.5  57.4 51.3
タタール    46.4 42.4  42.7 30.3
グルジア    46.9 40.1  46.7 40.7
アルメニア   60.3 39.0  54.7 18.7
トルコ     42.9 19.9  45.5  6.8
カザフスタン  25.8 13.1   2.3  1.7
ウズベク    23.3  9.7   ―  ―

            一年 二年 三年 四年
       ┌男児  100 64.6 54.1 31.2
トルコ    ┤
       └女児  100 36.9 20.0 9.2
       ┌〃   100 74.4 36.5 9.4
カザフスタン ┤
       └〃   100 38.0 7.3 1.0
       ┌〃   100 21.4 5.1 0.7
ウズベクスタン┤
       └〃   100 9.4  ― ―
       ┌〃   100 53.3 42.3 0.6
キルギス   ┤
       └〃   100 7.8  ― ―
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 ピオニェール教育は、いつも学校外のピオニェール分隊でされる。そこで男の子と女の子とは同じ規則と制服とをもち、本当に世界の社会主義社会建設の同志として行動することを覚えるのだ。
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(一九二九年フランスへモスク※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]から見物に出かけた。この国の古びたブルジョア封建文化の虚偽を最も強烈に感じたのは、小学校だ。往来は一緒に歩いて来た七つ八っつの男の子と女の子たちが校門へ入ると同時に、サーと二つに分れる。
 便所ではあるまいし、入口がフランスの小学校には別々に二つあるのだ。「女の子」「男の子」。
 そのフランスにいたとき、語学の教師がこういうことを話した。『フランスの子供ほど、世界中でマセ[#「マセ」に傍点]た子供はいない。九つになれば何でも[#「何でも」に傍点]知っている。だから迚も共学なんぞさせられないのだ。ある知人の家へよその細君がやって来た。そして、「宅がルアンへ今日立ちましたのよ」と云ったら、わきにいた六つの男の子が「小母ちゃん、じゃ今夜誰とねるの?」と訊いた(!)こういうのがフランスの子供です。』
 
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