自分は、それは大人のつみだ。小学校に女の子の入口、男の子の入口とある間、それはなおらないと云い、ソヴェト同盟の小学校の話をした。然し、生粋の所謂パリっ子であるとか女教師には共学そのものが理解されなかった。
笑うべき、しかし恐るべきこれは一つの経験であった。)
[#ここで字下げ終わり]
「五ヵ年計画」の文化建設プランの中で、ソヴェト同盟は三十四億七千六百留を、全同盟の国庫負担四ヵ年義務教育実施のために支出している。
社会主義建設の技術家を
男から! 女から!
現在のソヴェト同盟の、どんな役所へ行っても女の働きてのいないところはない。どんな工場へ行っても女の姿のないところはない。ロストフ市から数十哩東にソヴェト一の大国営農場「ギガント」がある。
一九三〇年の収穫時、そこを見学し、土地はどうつかわれるべきものか、社会主義農業とはどういうことを意味するか。燃える夏空の下で驚歎をもって観察した。
そこは、全く新しい世界だ。
第二農場が汽車で三時間ばかりはなれたところにあり、そこには、社会主義農業の核心をなす耕作機械専門学校が建っている。
工場に五年以上働いた資格がなければ入学させない。四十人の生徒が二年後はトラクター技師として働くために勉強中だが、なかに八人、女生徒がいる。みんな金属工場から志願し、選抜されて来ている連中だ。大柄な、頼もしい婦人青年同盟員《コムソモールカ》たちだ。
寄宿舎を、やはり女で、政治的活動をやっている同志に案内されて見学したとき彼女は、或ひとつのドアを外からコツコツと叩いた。内から元気な若い女の声が答えた。
「おあけなさい!」
「今日は! 日本から来た作家に、われわれの生活ぶりを見せてあげようと思ってね」
「ようこそ!……どうです? なかなかいいでしょう?」
ひろい一室に二つキチンと片づいた寝台がある。本棚がある。小ぢんまりした化粧台がある。壁にクルプスカヤとレーニンの肖像画がはってある。
「わたし共のところはまだ女の学生がすくないんです。だから今のところ、あっちや、こっちに、こうして室をもっているのです」
ソヴェト同盟では、ピオニェールの野営、林間学校から、専門学校、大学まで寄宿舎は男女共同だ。
数が半々だと、女生徒は階下、男生徒は二階という工合に、分れて寝室をもっている。食堂、勉強室、クラブ室などは勿論共通だ。
学校ばかりか、すべての勤労者が、年に一ヵ月ずつ有給休暇をとって休みに行く「休みの家」でも、こういう工合にやられている。
夫婦は一室を貰い、学生でも夫婦ものは、事情の許すかぎり特別な一室を給与されるのだ。
ソヴェト同盟が、勝れた階級の技術家を男から、女から必要とする必要は実につよい。従って、学生も専門技術学校、大学になるとあらゆる年齢を包括している。
三十の夫が法律学生で、妻は二十六歳、薬学専門だというような例はザラなのだ。
若い男と女とが一つ寄宿舎の建物に寝起きするのだから、勿論時にはいろいろの問題がおこることもある。
そういうとき、場合によっては寄宿舎の大衆討論の決議で、事件は決定される。また、幼年時代から学校で、職場で共に働いている今のソヴェト同盟の若い連中は、男女の評価の標準をどこにおくかということを真実にハッキリ自得しはじめている。
レーニンは、性関係の一時混乱した一九一八年時代に、正しい批判と予言とをそのことについて与えた。
「われわれの社会主義的建設の実践とその発展だけが、われわれの性道徳をも正しいものとするだろう。」
一九二七年に高等専門学校女生徒の割合はこうだった。
大学 四四・二 社会・経済 一六・二 芸術 三九・五
工業・機械 七・九 医薬 五一・二
農業 一四・八 教育 五一・三
「五ヵ年計画」は男女技術家の養成に熱中している。特に電気工業、機械、鉱業へ婦人の進出はこの頃ソヴェト同盟の目立った現象だ。
社会主義社会で、つまり男女同一労働に対して同一賃銀を実施し、しかも現実的な母性保護が完全に行われるところでこそ、男女共学が本ものとして行われるのは自明なことだ。
われわれが男女共学についていうときは、必ずその基礎となるプロレタリア文化革命の問題にまでふれなければならないのだ。
(時間がないので、後半はごく大ざっぱな記述となり、遺憾だ。いつかもっと補足したいと思っている。)
[#地から1字上げ]〔一九三二年一月〕
底本:「宮本百合子全集 第三十巻」新日本出版社
1986(昭和61)年3月20日初版発行
初出:「教育」(「教育科学 第四冊」附録)岩波講座、岩波書店
1932(昭和7)年1月15日発行
※女児就学率と共
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