石川淳、太宰治、衣巻省三その他多くの作家が、言葉どおりの意味での新進ではなく、過去数年の間沈滞して移動の少なかった純文学既成作家に場面を占められて作品発表の機会を十分持ち得ないでいた人々であり、長年の文学修業と鬱屈とを経、且つ又何かの形で主だった従来の既成作家の影響のもとにある人々であったことである。これらの作家達は、殆ど皆一通りならぬ文学・文壇への粘着力をもっていると共に、所謂文壇の垢にまびれていることも自然である。「賞」は、文壇の一つの側に門をあけたが、そこから出現した新進は、文学に新鮮活溌な風をふき起す代り、思惟と感情の異様な蜒《わだかま》り、粘っこさを文体にまで反映して、若き世代の文学が当面している社会的・文学的重圧の大きさを思わしめるものが多かったのである。
日本文学と欧州文学との接触を、これまでのように欧州文学をこちらへ移入する面からのみでなく、日本文学を海外へ紹介する形に於て行おうとする動きも、この年の注目すべき一つの文学現象であった。最も肉体的表情であって翻訳を必要としないスポーツで日本は世界の最前列に伍していることや、所謂躍進日本の他の一面としての文化紹介を欲する政
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