覚としては面白さを求めるとも見えるが、面白さの要素は心理的に綜合的なものであり、探偵小説、怪奇小説の類でさえ書かれている世界のリアリティーは、面白くない面白いを決定する重大な契機となっている。
面白さが読者大衆から要求されているということを、すぐエロティックなものだのチャンバラだの、くすぐりと見なすのは大衆の感情そのものを実際知らないものであるし、作家らしからぬ粗笨《そほん》さである。大衆の生活の現実にふれてゆく社会的リアリティーが作品というものの窮極の面白さであることには疑いない。大衆の人間的苦悩、時代の重しを感じ、それらの重みを欲していない心持の身じろぎを捕える芸術の社会性、そのような今日の顕著な人間性のリアリティーをもち得なくなったことから、従来の一部の作家が文学の大衆化を叫び出し、しかも大衆というものの誤った理解から誤った通俗化、低俗化への道を辿りはじめ、文学そのものを腐敗させつつあることから見ても、このことは明らかなのである。
個々の作家が、それならば、どのようにして今日の人間性、大衆の生活感情を作品に反映してゆき得るかと云う点になると、答はまことに平凡な、耳馴れた、既に
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