ても、大概は痛烈な現実への肉迫とならず、たかだか一作家のポーズと成り終る場合が非常に多い。作家は、現実に向って飽くまで探求的であり、生のままの感受性をもち、自身の人間的心情に立ってひたむきでなければならないと思う。その意味では、最も大乗的な素直さが求められる。私たちが今日を生き、そしてその中に、人間としての自己の生涯を与えつくすところの現実社会のありように対して、そこから生まれ生もうとする文学に対して、私たちはどこまでも、若々しくおどろきと疑いとをもち得る心をもって励んで行かなければならないと思う。
文学の賞の今日のありようについても、単に皮肉な毒舌や内輪のごたつき話に対する嘲笑をもって終らず、謂わば文学における自分の努力の一つ一つを、今日の文学の質をよりましなものとしていつしか変えてゆくべきものとして、責任深く感じる心持が大切と思われるのである。[#地付き]〔一九三九年八月〕
底本:「宮本百合子全集 第十一巻」新日本出版社
1980(昭和55)年1月20日初版発行
1986(昭和61)年3月20日第5刷発行
親本:「宮本百合子全集 第七巻」河出書房
1951(昭和26)年7月発行
初出:「懸賞界」
1939(昭和14)年8月下旬号
入力:柴田卓治
校正:米田進
2003年2月17日作成
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