いているし、その農村の工業化の問題においても、専門家大河内子爵は、機械製造工程の発達した現在にあっては、安い賃銀の農村の娘が、たやすく、自動車の部分品をも作り得るから、農村工業化の強味はそういうところにもあると新聞に意見を発表している。
 この一見相反するように見える婦人の生活に対する観方を彼らはもっとも便利に縫い合わせる術を知っている。家が大事という封建的な立場に立った感情を婦人の心に強くめざめさすことは食うに食えなくなった家のために話にならぬほどの低賃銀で十三時間も働かせられたり、有毒な仕事にこき使われたりすることをも、忍耐強い日本婦人の美徳として自分自身満足するよう、たくみに利用されている。若い女から利潤をしぼり取る現実のしぼり手の姿を、家のためという言葉の雲のかなたに包みこませてしまうのである。ここにおいてわれわれはいかなる感情を「婦徳の輝き」に対して呼び起されるであろうか?

 今一つここに注意すべきことは、現在の「非常時」的社会の相の不安につれて、いわゆるインテリゲンチアに対する嘲弄が文学その他の文化の面に現れていることである。
 歴史はわれわれに実例を以て真に多数者の利害の上に立った文化を建設して行くためには、その基礎となる生産関係の解決問題と共に、進歩的なインテリゲンチアの協力がいかに必要であるかということをよく示している。資本主義の必然的な矛盾はインテリゲンチアをも経済的に窮乏におとし入れ、その広い部分が労働者化の過程をたどっているし、同時に、古い文化の涸渇《こかつ》と腐敗を見透し、自身の生存のためにも新しい生活と文化との建設の必要をますます自身の問題として感じるようになって来ている。インテリゲンチアの労働者の側への移行は、プロレタリア文化建設の可能性とともに世界的な動かすことのできない事実であり、必然の勢であるにもかかわらず、昨今の文化政策は非常に巧妙な手段でインテリゲンチアをふくむ小ブルジョア層にますます小ブルジョアの無気力を助長するような自嘲、自己嫌悪を吹きこみ、労働者の側からはその現象をさながら動かすことのできないインテリゲンチアの特性であるかのように愚弄するような社会的空気がかもされている。転向の問題などもその一つの現れであろう。
 一方から見ると、誠に当を得たように思われる文化政策(たとえば学生がカフェー、ダンス場に出入することを禁じる
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