皇制が最後の奉仕を行い得る限界はすでにすぎている。日本国内の旧支配権力は天皇に対する連合国側のこの利用的譲歩の技術に乗じて全くそれを悪用している。彼等は一九四五年八月以来、公職から追放された政治的・軍事的有力者の利害を結集して裏面に反動的支配勢力を組織した。
 人民の眼からかくされている上層部の裏面的な政治勢力は、内閣および議会をかいらい[#「かいらい」に傍点]として表面上は財閥解体令を受け入れながら緊急金融措置令によって新円切換えを行い、さらに半年のうちに第二回の金融措置(一般に預金封鎖とよばれた)を行って特権的階級に手厚い保護を与えた。財産税の処理方法は多額納入者により便宜な支払方法を決められた。その上、財産税の用途には軍需生産業者の損失[#「損失」に傍点]に対する国家の補償が含められた。
 一九四六年三月以降第一回金融措置令以後インフレーションは急に上昇した。物価は目立って高くなった。税率が引き上げられた。これらすべての事情は、戦争によって経済的支柱を失った多くの家庭をはじめとして全人口がそれぞれの角度から戦災者である勤労階級の生活をますます急迫させた。一九四六年から四七年の二月
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