Zの経営者を安心させその子供を入学させるのはすべてヤミ成金の特権者だけになるであろう。内申書問題が重大な波紋を画いた理由がここにある。二月下旬になって内申書に成績と両親の経済状態は記入しないでもよいという結論になってこの問題も落着した。しかし設備と教師のそろっている私立中等学校への入学志望者は殺到して、そのために情実入学の事実は昨今(一九四八年三月初旬)の新聞に具体的に報道されている。
日本の中等学校入学難は中等学校の数の少いことと私立中等学校の質の悪かったことなどを原因として殆ど伝統的になっている。小さい子供たちの中等学校入学試験があまりむずかしく競争が激しいので、その緩和策として内申の制度が出来たのが数年前であった。ところが内申制は競争試験よりも教師と両親と子供たちを腐敗させた。子供たちは先生の気に入るか入らないかということについて神経を働らかせるようになった。親たちは子供の内申書をよい条件で書いて貰おうとして学年のあらたまるごとに先生への心づかいを出来る限り物質的に表現した。ついさき頃の新聞でさえ内申書問題にからんで教員の投書をのせていた。それには日頃乏しい生活をしている教師が
前へ
次へ
全166ページ中68ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング