l民の悲劇のなかにファシストと治安維持法の演じた役割は中世的流血をもって彩られている。今日、日本の誰が、ファシストを必要としているのであるか、今日、誰が、治安維持法の改悪の諸段階を一身の閲歴としている人物を必要としているのであるか。
 日本民主化は四七年度において欺瞞の度を強めた。反動と保守が政府の政策のたて糸であった。一九四七年末から四八年初頭にかけてすべての日本人民は巨額な納税の負担に苦しんでいる。インフレーションはとめどがない。千八百円ベースは保ちきれなくなって、二千四百円ベース案を政府は提出しているが、勤労人民は、それをうけ入れかねている。千八百円ベースに、家族手当や残業手当その他の給与を加えて、今日どうやら実収二千円以上に近い程度の大多数の勤労者は、二千四百円ベースになると、却って実収は現在より減少する。勤労所得税がより高率にかけられることと二千四百円ベースには今日の諸手当が全部合算されてしまうからである。勤労人民が生活安定を求めて団結する力を扱いやすい形に分裂させるため、組合民主化運動と称する分裂運動が盛に行われている。この運動は、その本質にふさわしく買収の方法もとっている
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