でいる。
「歌舞伎」は脚本のテーマを全く封建社会の悲劇の中にもっている。演劇として歌舞伎が持っている今日の生命は、古典として完成されている舞台の諸様式、古典的舞踊と歌曲とが演技の中に独特な調和をもっておりこまれていることなどである。歌舞伎の代表的ドラマの一つである「忠臣蔵」は、封建君主とその臣下の復讐の物語であり、日本の「武士道」の典型とされてきた。一九四五年八月以後この武士道ドラマはGHQによって上演禁止をされていた。ところが一九四七年歌舞伎座でこの「忠臣蔵」が公演された。そして特に皇后の一行がそれを観た。
 歌舞伎は今日の日本人の生活感情にとって主として絵画的な舞台の珍らしさで魅力をもっている。ドラマのテーマがあまり封建的であることは、まだ多くの封建的要素をのこしている一般人にも自覚されてきた。たとえばいい着物を着て歌舞伎を観ることをよろこんでいる若い女性も、徳川時代の男女が彼等の恋愛を死によって完結させようとした「心中もの」には批判を抱いている。
 新派 は、歌舞伎よりは新しくしかし新劇よりは古いという中間的な立場から、新しく発展することが非常に困難になってきている。新派は十九
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