ヘでみがきのかかった過去の技術の中にもりきれずにいるといえる。
 新劇の流れの中に成長した戯曲家は、まだ彼らの過去の業績をしのぐような作品を送り出していない。意力的な構成力をもっている久保栄の「火山灰地」は新劇レパートリー中の古典であるが、一九四七年に上演された同じ作家の「林檎園日記」は、「火山灰地」に及ばないものとしてみられた。
 東京自立劇団協議会に組織されている東京附近の三五劇団は、上演創作劇四三の中、二〇ちかく勤労者自身の手になる戯曲を上演している。これらの戯曲は、過去の新劇や軽演劇の影響ももっており、一面に保守的趣味さえ示している。しかし日本製靴労働組合の服部重信の「蒼い底」、「労働者の子」、日立亀有の堀田清美「運転工の息子」、大日本印刷鈴木正男「落日」などは、注目すべき新鮮さをもっていると批評されている。
 短歌・俳句 ヨーロッパ文学のジャンルにはない短詩の形式としての日本の短歌および俳句は、伝統的な形式の骨格を保ちながらもその表現の手法やテーマにおいて、より生活的に社会的に変化しつつある。
 短歌の古い指導者たちは、ギルド的な自分の流派をしたがえて戦争中軍国主義の短歌をつ
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