@について関心を示してきた。今日「私小説」は、ようやくより広い社会環境に向って解放される可能を見出した。民主主義文学運動の展望におけるもっともプロスペラスな期待は、近い将来において民族的であるとともに、世界的である一定の社会生活の芸術的表現として日本文学を成長させるであろうという点にある。民主主義文学の広汎な運動は、新しく生れ出る作家の社会的基盤をこれまでの中産階級から勤労階級の間に拡げつつある。日本の作家は孤立した社会階層の環の間に封じこまれた人々ではなくなるであろう。新しい作家は、彼等の文学的能力をもって議会の中に、役所の中に、工場の中に――即ち社会生活の全有機的活動の網目の中におりこまれつつ、生きつつ、たたかいつつ、新しい日本のよりひろい人間性と社会性にたつ文学を生むであろう。日本文学のリアリティは、このようにして新しい表現と多彩な内容とを持つであろう。
「私小説」否定の問題について、丹羽文雄によって独特な説明と文学実践が行われている。戦争中海軍の特派員に動員されて「海戦」などを書いた丹羽文雄は、最近「社会小説」という問題を提起している。彼は日本の社会の条件が、一人一人の人をどの
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