カ化の総和でなければならない。一国内におけるユネスコ運動は、その国の内部にある反野蛮的なファシスト的なすべての文化的善意をたすけ、その活動を高める作用を持たなければならない。文部省のユネスコ運動を真に民主的で自主的な、人類の国際文化運動にまで改善してゆくことは日本における民主的な文化活動の義務である。[#地付き]〔一九四九年一月〕
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     追記

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 この「今日の日本の文化問題」が、書き終えられたのは一九四八年三月下旬であった。それから後こんにちまで五ヵ月ほどの間に、日本の社会情勢と、文化の状況とは一つの新しい段階に入った。したがってこの報告がより完全なものとなるために、以下の追記を必要とする。
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 本年度の国庫予算は六月下旬に議会を通過した。総額三、九九三億円である。前年度の予算総額は二、一四三億円であった。ほとんど倍額に近いこの予算総額は、最近における日本のインフレーションのすくいがたい悪化を物語っており、同時に一般人民の極度な経済的困窮を示している。あらゆる形で大衆課税がとりたてられ、たとえ所得税の税率がいくらか引き下げられたとしても、汽車賃の二倍半までの増額、公定価格の七割ほどの引上げ、通信料の四倍、煙草の二割から八割の値上げは、あらゆる家計を破綻させている。とくに本年度の悪質大衆課税として批難をうけながらついに国会を通過した物品取引税は、総額二七〇億円の収入を予定されていて、この取引税が時計の修繕にも靴の底なおしにも、映画や芝居をみるときにさえも消費者の負担となってくる。各取引ごとに一パーセントとされているこの税も一年間の負担を通算すれば、各人四パーセントから五パーセントの支出となる。赤字家計は三千七百円ベースでは支えきれない。文化面で一冊の書籍は、これまでの定価になかった五パーセントの取引税を読者のポケットから取ってゆくことになった。

 一、以上に述べたような経済事情の悪化は、小規模な出版業者の没落と、没落しまいとするもがきから一層粗悪なエロ・グロ出版を行わせる結果になった。日本出版協会は、日本民主化のために有益な出版を鼓舞しようとするたてまえから、さる六月エロ・グロ出版物追放の仕事に着手した。この仕事は、一応すべての人の常識にうけ入れられる性質をもっている。エロ・グロ出版物の数が減ってより良書が一冊でも多く売り出されることは必要である。しかしエロ・グロ出版物追放に関連して一部に出版取締法のようなものを再び日本につくろうとする動きがある。刑法は猥褻罪を規定しているから猥褻な本の取締りのためには、刑法のその条項を適宜に運用すべきである。もしかりに、漠然と公安を乱すおそれがある出版物はとりしまるというような新取締法をつくったならば、政府はよろこび勇んで、政府を批判し彼らの良心を眼覚めさすすべての出版物を禁止しはじめるであろう。情報局が戦時中すべての戦争反対の言論を禁止したように。

 二、日本の文化の民主化を口実として、あらゆる機会に文化の官僚統制をもくろんでいる政府は、用紙割当事務庁案を具体化しようとしている。用紙の不足とそれにからむ不正取引摘発を機会に、内閣直属の用紙割当委員会を組織した。一九四六年に用紙割当事務の内閣移管が行われたとき、政府は日本出版協会の公的存在を認めること、言論出版の自由を認めることを条件とした。ところが行政機構の変革をチャンスとして政府は従来の用紙割当委員会さえも無視して、ただ一人の長官が決定権をもつ用紙割当事務庁というものを創設しようとしている。世論は当然反対し、ひとまず現在の内閣直属の用紙割当委員会の自主的権限を認めるところまで譲歩させた。しかしここに奇妙なことがある。日本出版協会は、内閣直属の用紙割当委員会ができるとき、出版協会の文化委員会を総動員して反対運動にたった。ところが出版統制のよりすすんだ段階を示すこのたびの用紙割当事務庁創設案に関しては、文化委員会から質問のでるまで自発的説明を与えなかった。またひろく文化界によびかけて民主的出版を守るために、イニシアティブを発揮しようともしなかった。このことは日本出版協会という業者の組織が、その機構の内部に戦時中からの役員を包括していることを我々に思い起させる。日本出版協会が今後民主的出版を守るために果してどのように行動するかは、きびしい監視を必要とする。

 三、ラジオの民主化が日本の民主化における重要な課題であることは、すでにのべたとおりである。日本のラジオの民主化のために、一九四六年に、民間有識人をあつめた放送委員会が組織された。しかし日本放送協会は、手段をつくして放送委員会をボイコットしようとし、一九四七年には組合を分裂させることにも成功した。そしてラジオの民主化が、
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