キ正木亮がその法律顧問をしていたことが明らかとなった。また篠原組親分の実質的協力者は塩野前司法大臣であったこともしられた。或る者は皇族の一家と関係をもっており、或る者は自由党に関係があった。輿論は自由党の経済的毛細管であり、動員網であるヤミ市の繩張り顔役の勢力に、社会党が一撃を加えたものと認めた。
 同時に一般市民は片山内閣そのものの腐敗した構成にも驚かされた。苫米地の事件をはじめとして平野元農相の資格失墜問題、西尾官房長官の資格についての疑点等が党内の勢力争いとともに公表された。
 片山内閣のこのような弱点に人民の不信頼が向けられるようになったのは、経済再建に示された無力さと同時に前年以来日本の国内にきわめて確実に拡がってきた軍国主義的反民主的底潮に対する警戒からである。戦争責任の追求は政府によって実に申訳的に行われている。パージからのがれるためにさまざまの手段が用いられ、その効力があるような余地が残されている。急進的な勤労人民の民主化を防ぐため、いわゆる力の均衡を保つため秘密のうちに旧陸軍将校、憲兵、ファシストを中心とする反動勢力が培養されている。一九四七年の秋一斉に新聞に特ダネを与えた「地下政府」の存在を片山首相は否定したけれども諸外国はその実在を知っている。日本を愛し民族の自立を期待し徹底的な日本の民主化によって世界の平和的な再建に参与したいと希望している真面目な日本人は、反動勢力の意識的な培養について心痛している。印度においてもアラビヤにおいても培養された反動勢力は、その国の平和的民主化をかきみだす役目につかわれている。その民族を衰退させるための出血に役立てられている。そして、それはとりも直さず世界平和の不安定をもたらしている。東條を中心とする戦争犯罪者の公判のために前年から開かれている東京裁判の陳述を見ると、被告の殆ど全部が侵略戦争に対する人道上の責任を自覚していない。その上被告のための日本側弁護人法学博士清瀬一郎は被告たちの無良心を彼の厚かましい弁舌によって世界の正義からいいくるめようとした。戦時中戦争協力者であった清瀬一郎弁護士が日本側弁護人首席として登場したことに日本の民主的市民は驚いたのであった。元元老たち、その中には米内元海軍大将を含む四人が、シャンパンの盃をあげている写真が新聞に出た意味も、それが民主化とどう関係するのか理解しがたかった。日本
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