阯ヌ書が一冊でも多く売り出されることは必要である。しかしエロ・グロ出版物追放に関連して一部に出版取締法のようなものを再び日本につくろうとする動きがある。刑法は猥褻罪を規定しているから猥褻な本の取締りのためには、刑法のその条項を適宜に運用すべきである。もしかりに、漠然と公安を乱すおそれがある出版物はとりしまるというような新取締法をつくったならば、政府はよろこび勇んで、政府を批判し彼らの良心を眼覚めさすすべての出版物を禁止しはじめるであろう。情報局が戦時中すべての戦争反対の言論を禁止したように。

 二、日本の文化の民主化を口実として、あらゆる機会に文化の官僚統制をもくろんでいる政府は、用紙割当事務庁案を具体化しようとしている。用紙の不足とそれにからむ不正取引摘発を機会に、内閣直属の用紙割当委員会を組織した。一九四六年に用紙割当事務の内閣移管が行われたとき、政府は日本出版協会の公的存在を認めること、言論出版の自由を認めることを条件とした。ところが行政機構の変革をチャンスとして政府は従来の用紙割当委員会さえも無視して、ただ一人の長官が決定権をもつ用紙割当事務庁というものを創設しようとしている。世論は当然反対し、ひとまず現在の内閣直属の用紙割当委員会の自主的権限を認めるところまで譲歩させた。しかしここに奇妙なことがある。日本出版協会は、内閣直属の用紙割当委員会ができるとき、出版協会の文化委員会を総動員して反対運動にたった。ところが出版統制のよりすすんだ段階を示すこのたびの用紙割当事務庁創設案に関しては、文化委員会から質問のでるまで自発的説明を与えなかった。またひろく文化界によびかけて民主的出版を守るために、イニシアティブを発揮しようともしなかった。このことは日本出版協会という業者の組織が、その機構の内部に戦時中からの役員を包括していることを我々に思い起させる。日本出版協会が今後民主的出版を守るために果してどのように行動するかは、きびしい監視を必要とする。

 三、ラジオの民主化が日本の民主化における重要な課題であることは、すでにのべたとおりである。日本のラジオの民主化のために、一九四六年に、民間有識人をあつめた放送委員会が組織された。しかし日本放送協会は、手段をつくして放送委員会をボイコットしようとし、一九四七年には組合を分裂させることにも成功した。そしてラジオの民主化が、
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