理想、要求は主義で解決は出来ない。主義の項目を如何ほど暗記しようとしても、それの中心たる、これでこそ生きているという終極の安心は得られないでしょう。その時その女性は、本当に自分の道を見出す必要に迫られて来るのです。自分の安心立命の出来るものを発見しようとした時、初めて時代と自分というものの本当の交渉が理解されるようになり、或はまたその時代の標準、方法、理想に満足するかも知れません。然しそれは人によって違うことで、ある人はその道の前に、或いは後に、それを見出すでしょう。そこに、その人の運命は定まるのです。

          三

 この意味から、真の自分が何であるかを知る必要があります。それは教育でもなければ、また時代の影響でもない、三つ子の魂そのものです。これは各個人によって違っているものであるから、真実まことの自分を各自は考えなければなりません。此処に於て初めて、或る時代に一人の人間が生きているということになるのです。即ちその人は色々時代的な感興を享けるのでなくて、時代の中にあるものを吸って真の時代に混和させ、而して自分を作り上げるのです。時代通りにすることは無意味です。然しするもしないも自分の誠心一つではあるが、この真の時代と混和した心持こそ、初めてその時代を知るものに外なりません。この大切な事柄さえも女性にとっては、その自由が阻止され勝ちです。
 なお最後に女の自由は、その子供のうちは比較的解放されているが、十八九位になると、全く男と違った生活を強いられます。今の時代に於いては「お前のすることは全部お前に委かせるから、責任を持っておやりなさい」というのではなく、娘は「どこそこのお嬢さん」というものとして取扱われ、親の作った輪の中に閉じ込められているのであって、真の解放や自由は与えられていないのが多くはありますまいか。娘から妻になる場合、それも多く親が結婚させて呉れる、そこに自由がない、個性がない、男の人の経験する「恋愛模索時代」というものが少ない。即ち信じたり疑ったりする経験を持つ時代が女には乏しくなり、従ってそのために熱も欠けようといった有様です。
 男は良人になり、父になり、益々その責任が強くなる。また社会人としても、その経験が広く深くなります。女は多くの場合、家庭内の生活に堕し、社会的関係がないから其まま納まってしまうが。娘時代から結婚時代へ、妻、母
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