いに正直であろうと、そのためには我が身をみつめている峯子は、女としてのそういう努力が、女同士の間に一つの反撥をももたせることがおどろかれた。
正二への心持が、自分を支えていることは、峯子も十分知っているけれども、紀子のような角度でそれを見ていられるのは心苦しかった。
「いろんなことを、紀子さんは考えちがえしていらっしゃるようね」
それを押しかえして迄云いつのるほど紀子も根深いものをもっているのでもない様子である。
日夜流れる水に漬っていつか浸蝕されてゆく河岸の土のように、紀子たちの結婚生活が目にも見えず崩れてゆく不安を峯子は直感するのであった。
その不安は、紀子の気持に、何ということはなくとも、映っているのだろう。不安ながら何をどう捕えてよいか、それがさし当って分別されない紀子の感情なのだろう。
そう思えば、自分につっかかって来た心持もその動揺の姿として、堪え得た。学校を出てから数年を経た今日、峯子に、一層しみじみとおどろかれるのは、教育というものが、めいめいの人柄に具っているよさ、わるさ、などというものの発露に、殆んどかかわりないという事実である。
とき子は、薄茶色のスウ
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