なり外が眺められます。腰かけて勉強するには、こういう工合が室の方がいいこころもちです。青い小さい柿の芽、紅い楓の芽、古びたタンク、そして垣根越しに隣りの庭の柔かい楓の芽立ち、乙女椿、常盤樹が見え、雨戸のしまった大きい家の一部が見えます。
こうして自分の巣をこしらえられて(それ丈の人手があって)何とうれしいでしょう。去年の四月から、相当の辛棒いたしましたが、その甲斐があり、落付く一刻が千金です、島田へ行く切符が買えるか買えないか、判るまでたっぷりこの室の愉しさをたんのうしようといたします、右手のしまった襖をあけて入っていらっしゃったら、きっと、なかなかいいじゃないか、と仰云るでしょう、この室は砂壁でね、もう古いもんだから糊がぼけて、一寸さわってもザラザラ落ちるのよ、其がいやだけれども今度は智慧を出して、机椅子のほかには何ももちこまず、正面の壁が寂しいからそこへ飾棚をおいて、美しい古壺を一つ飾ってあります、すぐ傍で自然はきわめて動的ですから室内は全く静かでよく調和いたします。
一年ばかり大ガタガタで暮し、外へ出れば傷だらけなのでこんなに落付いた味が恋しくなったのね。すてられて、雨戸を閉
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