た、風邪気味の中を。だから大疲れのわけね。しかし書いていて、いいこころもちよ、やっと、やっと自分に返ったように。
きょうも一時ごろ思いました、のどかだったでしょう? いかにも春らしくて、ね。畑の種が芽生えました。そんなこと思ってゆったりしていたら警報で、あののどかさから遑しさへの急転直下、何かきょうは面白く、新しく感じました。何たるどうでん返しでしょうね。ああいう明るい、のどかな、春の陽の下で生活はいきなりでんぐり返り、家がなくなったり死んだり、一大事が通過するのです。あきれたものね。でも人間はやはり生きて行くわ。正気を失いもしないで生きて行くわ。わたしは今のような時に、いち早く奥山に逃げこんでしまえないことを寧ろよろこんで居ります。これで、もっともっと丈夫だったらどんなに愉快でしょうね。
あなたのお手紙を二つ並べてくりかえし読み、こんなことを感じて居ります。こうしてお手紙よむと、そこにはいつも変らぬあなたのテンポがあり、それは弾力にとみつつアンダンテで快調です。十日以後、あなたの話しぶりがいくらかお忙しそうね、プレストです。そんなにぺこなのだろうと思います、時間のないということは
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