フレは通過したのであった、と。『ヨーロッパの七つの謎』を土曜日までに読もうとしてけさも熱心によみ、且つ考えていたので、その対比を一層つよく感じます。人間的善意というものの質量についても。
『七つの謎』は、やはり面白い本であるし真面目な教訓にみちた一巻であると思います。人間の善意というものの成長について一つの時代を画したものであり、欧州というものの連関を知らせるものでもあり、善意が、ある段階において現実の推進にとりのこされ得るものであること、そういう場合、それはその個人の悲劇にとどまらず善意の悲劇であることなどを感じさせます。
 愛というものは、いつも淳樸であり、若々しく善良でその意味では稚いけれども、愛によって賢しと云うこともあり、愛によって勁しということもあります。善意というものはやっぱり若々しく永遠に若いものだけれども歴史の段階に即して成長するということは或種の人々にとって不可能なものなのね、つまりその結果は、善意が実功をあらわさず奸悪を凌駕する雄々しい美しい決断と智謀とをもたず善意はお人よしに通じてしまい、高貴な精神も萎えてしまうのね、現実の前に。
 この『七つの謎』をよむと、欧
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