橋、虹の色という調子のものよ、ね。しかし、ちっともそれは芝居にはならないわ、壮厳微妙ですから。大らかすぎ、精神において演劇発生史以前ですからね。芝居と講談にならないということは大変慶賀すべきことなのね。西郷南洲はあらゆる芝居と講談と小説のたねにつかわれるが、日本の建設のためにあれだけの仕事をした大久保利通は講談にならない、木戸も講談にならない、これは何事かを語っていますね、と、鷺の宮の小父ちゃん[自注2]の言にしては犀利なり。きょう、ずくんでいられていいお年玉頂いたと思います、ありがとうね。
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[自注1]チジョサン――「中條さん」のこと。
[自注2]鷺の宮の小父ちゃん――壺井繁治。
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一月十日 〔巣鴨拘置所の顕治宛 駒込林町より(封書)〕
一月十日
さて、例の小机を膝の上にのせ、ああもう三時になってしまった、と思い乍らこれをかきはじめます。けさ、ふと気になってポストを見に行きましたら、入っていました。見ると、一月八日のなのよ。去年のおせいぼ、待ちかねているのにどうしたのでしょうね、未着です。お歳暮のしるしとしてすこしほめて下すっ
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