周防村の新谷という一等兵が来て、負傷後宮本と三日一つトラックにいた。傷は後頭に一寸位の破片による傷二ヶ所、顔に薄い火傷。出血は六日午後に止った。帰っているかと思って来たとのことです。十三日に帰宅命令で戻った由です。お母さんがその人の宅へ行き、いろいろ細かにおききになったそうです。達ちゃんは、手当をうけられないからと三日目にトラックへ乗ってどこかへ行ったというので、病院などもお調べになったが不明。二十四日、友ちゃんが友人の西山と同道本部へ行き、いろいろ調べたが、隊では三日いたことさえ不明の由。負傷者は十里二十里先、島へまで運んで迚も調査ができない由、兵営は全滅。何万という人だそうです。原簿がやけてしまったそうです。広島全部焦土の由。その上生きている人々は解除で四散し、全く手のつけようもないようです。「原子爆弾は一寸の傷でも受けたら毒素が体内に入り、負傷後死する人が沢山あるとのことで、新谷兵[#「兵」に「ママ」の注記]も宅へ帰って大変の熱が出て、なお生死の程も気づかわれて居ます。今だに達治の死体が分らないというのは不思議です。たとえ広島は焦土と化しても三日も生きていたのなら、どこで死んでい
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